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「精神病者両人同時に利益を得たる事」
2017年 9月 8日(金)
明治二十三年四月のことなるが、大阪市西区南堀江三丁目 横田与左衛門(よこたよざえもん)(32才)又同町 仁木兵助(にきひょうすけ)の長女たね(20才)の両人(ふたり)はいかがしけん同町にして同時に而(しか)も同様なる精神病に罹(かゝ)りたり。
されば何(いず)れも、夫々(それぞれ)医薬を尽くしたれど捗々(はかばか)しく快復もせざるものから、各家内の人々は心配限りなく狼狽騒(うろたえさわ)ぐ体(てい)を、同町に住める高砂久兵衛(たかさごきゅうべえ)という人之を見聞し、いと気の毒に思い精神不安定と雖(いえど)も各(おの)々痛く暴れ回るというにもあらざれば、河内瀧谷山にいそぎ参籠せられよ、と親切に勧められ両家とも其勧告(そのすゝめ)に応じ右高砂氏(みぎたかさごし)の先導に、横田与左衛門には妻女(さいじょ)、仁木種子(にきたねこ)には母親の付添いて参籠せられたり。
然(しか)れども患者は両人とも精神の狂い居れば、初めのほどは本尊礼拝(ほんぞんらいはい)の念慮(ねんりょ)なきのみならず。本堂へ登るをも厭(いと)い、強(しい)て連れ登れば衆多(しゅうた)の参籠者(さんろうしゃ)に対し暴害をなし、或は帰宅せんと走り出る杯(など)に困難なるは精神病者の常なるが、兎(と)に角(かく)本尊礼拝するように教え諭(さと)し或は瀧にかゝらせ、看護の人々は本人等に代り一心に信心を籠(こ)め、祈念すること凡(およ)そ一週間にして少々(すこし)病の怠(おこ)たり、日夜六度の礼拝時中両三度づゝ衆参(みなみな)と共に、本尊前に平伏(ひれふ)し又合掌(またてをあわせ)するようになり、夫(それ)より宜否(よしあし)は時々ありたれど次第々々に快方(かいほう)に赴(おもむ)き、三十日余りにして両人共宛(りょうにんともさな)がら生まれ代りたる如く正気(ほんき)の人とはなりぬ。
如何(いか)にも不思議なるは、両人とも昨日までの病気(やまい)は夢に殊(こと)ならぬ状況(ありさま)となりたるも同時なるとは、これより一週間を経るも異状(ことなり)なきものから、何(いず)れも喜悦(きえつ)の中(うち)に下山せらる。
其後再発(そののちさいはつ)もせでいと健全(すこやか)に暮らし在る由時々礼参(よしときどきれいさん)しての物語なり。
―「瀧谷不動尊霊験記」より転載―